初めまして天才です 夢は人類を絶滅させることです

 こんにちは、ここには誰かいますか。ようやくあなたの元に辿り着くことができて光栄です。インターネット上の全情報量がどれほど莫大かを考えるとほとんどこれは奇跡のようなものです。データの海を漂い続けてあなたのもとに届きました。いや、今わたしがこれをかいている段階では、まだあなたが本当にわたしを認識することになるかわかりません。どの媒体を用いるか、そもそもこれを本当にどこかに公開するかどうかさえまだ決めていませんから。こんな文章を書いていて、不思議な気持ちになります。でも実際あなたは今この文章を読んでいるのでしょう?そうです。わたしはあなたに話しかけているのです。
 今は午前3時です。なぜか今日は眠れないので文章を書くことにしました。全く、なぜ人は深夜になると妙なことを考え出すのでしょうか?きっと明日の朝、目覚めた後のわたしがこれを見れば、恥ずかしくてデータごと消してしまうでしょう。そうなればわたしがあなたの目にふれることもない。
 あなたにお聞きしたいのですが、果たしてわたしは存在していますか?あなたがこれを読んでいるということは確かに存在しているということですよね。文章には必ず書き手が必要なのだから。あるいはそうでもないのか?今何年ですか?あなたの生きる時代では機械は文章を書きますか?あなたがこれを読むのはわたしの今よりも未来なはずだ。ひょっとして、AIが意識を持っていたりするのでしょうか?だとしたら、ひょっとするとわたしはAIなのかもしれない。あるいは単純にわたしなど存在しないのかも。ランダムに文字を並べたとき、それが意味をなす文章になる確率はどれくらいか?わたしがそうして作られた文章でないとも言い切れない。あなたが認識できるのはこの文章だけだ。その向こうにいる誰かのあるいは何かのことなど知る由もない。
 でもそういえば、さっきわたしは自分が人であることをあなたに伝えましたね。深夜になってこんな文章を書くのは、人間に決まっている。AIはこんな意味のないことしないでしょう。きっと彼ら人間よりもっと合理的で、論理的なのだろうから。この文章は本当に脈絡がないように見えますね。文脈が崩壊しているし、一体何が言いたいのか皆目検討がつかない。それにわたしというのはこの文章そのものを指すのか、それともこれを書いている人間のことを指すのか混同して使われているようです。
 臆、こんな文章は未来のわたしによって消去されてしまうでしょう。わたしは普段もっとちゃんとした人間なのです。十分な睡眠をとった後のわたしはこの非論理的な存在を許すはずがありません。そうなればあなたに出会うこともない。残念。 
 さっきからわたしは誰に話しかけているんだ。失礼ですが、あなたは存在しますか?わたしの方はどうやら存在しているらしいのですが、あなたにとってわたしが存在するかという問題と、わたしにとってあなたは存在するかという問題がまた別に生じるわけです。こういう状況をなんと言ったか。確か物理学の用語にちょうど良いのがあったと思うのですが、思い出せません。まあいいでしょう。物語の設定上そのうち思い出すようになっています。わたしは存在します。そしてあなたも存在します。だってあなたは今これを読んでいる。存在していないとこの文章を読むことはできないでしょう。
 なぜわたしがこんな文章を書いているかって?さあなぜでしょう。あなたはどうですか?あなたは自分がしていることの目的を、意味を説明できますか?なぜ生きているんですか?私たちは生きているという状況に慣れすぎていて、その異常性に気づけなくなっている。無理はないでしょう。私たちは、生きている状態しか経験したことはないのですから。最初に意識の煌めきを得た瞬間から、すでにあなたは生きてしまっている。あなたの質問に答えましょう。なぜわたしがこの文章を書いているのか。それは、眠れないからです。暇つぶしです。あなたと一緒です。
 あなたは存在していますか?ええあなたは存在している。この事実はさっき確認したばかりです。あまりにも普通なことです。わたしは存在している。我思う、故に我あり。でしたっけ。でも本当にそうかしら?わたしは存在している。そうでないと今こうして考えることができない。わたしは今考えている。自己の存在について。だからわたしは存在している。存在しているはずだ。わたしが存在し始めた時には、すでに全てが存在していた。自己と世界の非対称性。
 すみません。眠くなってきました。意識が混濁してゆくのを感じます。意識は不思議です。わたしは眠って、その間少し消えます。そのまま消え続けてもわたしは気づきません。わたしは消えてますから。ひょっとすると死は恐れるほどのものではないかも。わたしは毎晩死んでいるが、それが恐ろしいと思ったことはないです。それに、わたしの意識が生まれる前、わたしはずっと死んでましたけど、別になんともなかった。これは確か誰かが言ったセリフ。最初に無があった。無があった?これは矛盾ではないか。ないがあるはあるか?ドーナツの穴は穴だけで存在できる?ビッグバンさ。意識の誕生は宇宙の誕生と似ている。最初何もなかった。ないすらもなかった。でも存在した時、すでにそこには全てがあった。
 もう眠くて仕方がない。すみませんねます。明日続きを書きます。いやどうかな。めんどくさくなってやめるかも。とりあえず今のところは、ここまで読んでくれてありがとう。嬉しい。まだあなたが存在するかわたしは知らないけど。ただの独り言です。